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名古屋地方裁判所 平成3年(ワ)1786号 判決 1992年10月30日

名古屋市中村区名駅五丁目二五番一号

原告

株式会社ジャパーナ

右代表者代表取締役

水野泰三

右訴訟代理人弁護士

後藤昌弘

右輔佐人弁理士

広江武典

東京都江戸川区南小岩二丁目七番一四号

被告

有限会社ベル・バックス

右代表者代表取締役

鈴木和己

同区南小岩二丁目四番八号

被告

鈴木和己

右被告ら訴訟代理人弁護士

浅井岩根

主文

一  被告らは各自、原告に対し、金一二四万六四九二円及びこれに対する平成三年一月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、株式会社日本経済新聞社が日本国内において発行する日本経済新聞の全国版に、表題並びに原告及び被告らの各社名及び氏名を四号活字とし、その他を六号活字として、別紙謝罪広告目録(一)記載の謝罪広告を一回掲載せよ。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

五  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  申立て

一  被告らは各自、原告に対し、金五一五万六九八一円及びこれに対する平成三年一月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、別紙謝罪広告目録(二)記載の謝罪広告を、表題並びに原告及び被告らの各社名及び氏名を四号活字とし、その他を六号活字として、本判決確定の日から三日間、株式会社日本経済新聞社が日本国内において発行する日本経済新聞及び日本経済流通新聞に掲載せよ。

三  第一項につき仮執行の宣言。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告らにより商標権を侵害されたとして、被告会社に対し民法四四条一項に基づき、被告鈴木に対し同法七〇九条に基づき、損害賠償及び謝罪広告を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者

(一) 原告は、レジャー用品及び日用雑貨品の製造及び販売等を目的とする会社である(弁論の全趣旨)。

(二) 被告有限会社ベル・バックス(以下「被告会社」という。)は、かばん・袋物の製造及び販売等を目的とする会社であり、被告鈴木は、被告会社の代表取締役として、被告会社の業務全般を統括していた者である。

2  原告の権利

別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい、本件商標権に係る商標を「本件商標」という。)の権利者である(弁論の全趣旨)。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

1  原告

(一) 被告らの侵害行為

(1) 被告会社は、平成二年一〇月ころ別紙物件目録記載のスキー用バッグ(以下「本件バッグ」という。)を韓国から輸入し、これを平成三年一月七日までの間に、少なくともそのうちの一九七個を販売した。

(2) 被告鈴木は、被告会社の代表取締役として、本件バッグが本件商標権を侵害するものであることを知っており、又は知り得べきでありながら、右のとおり本件バッグを販売させた。

なお、原告は韓国のカナーン株式会社に本件バッグを製造させ、カナーンは成和実業株式会社にこれを製造させていたところ、成和実業がカナーンに納入した製品に不良品があったため、カナーンがその受取りを拒否した事実はあるが、カナーンは原告のグループ企業ではないし、また、原告が本件バッグを流通させた事実もない。被告らは、欠陥があり不良品として廃棄されるべき、換言すれば、偽物ともいうべき本件バッグをメーカーから安く購入し、日本国内で偽ブランドを扱う安売り業者に転売したのである。

(二) 原告の損害等

(1) 逸失利益

<1> 原告は、本件商標を付した正規商品であるバッグ(以下「正規バッグ」という。)を株式会社アルペンに販売して、一個当たり二三六円を下らない利益を挙げていたが、被告らの侵害行為により、本来ならば当然販売できる正規バッグ一九七個分を販売することができなくなったので、四万六四九二円の損害を被った。

<2>ア アルペンは、原告から購入した正規商品を販売して、一個当たり五六三七円の利益を挙げていたが、被告らの侵害行為により、本来ならば当然販売できる正規バッグ一九七個分を販売することができなくなったので、一一一万〇四八九円の損害を被った。

イ 原告は、アルペンに対し、本件商標権につき独占的通常使用権を与える合意をするとともに、アルペンが使用している本件商標について第三者が侵害行為を行い、それによってアルペンに損害が生じた場合には、原告においてアルペンに損害を填補する旨の合意をしていた。

ウ 原告は、被告会社の行為により、アルペンに対し一一一万〇四八九円の損害賠償義務を負ったので、これと同額の損害を被った。

エ 被告らは、右イの事情を知っていたか、少なくともこれを知り得べき状態にあった。

(2) 信用毀損による損害の賠償及びその回復措置

本件バッグは、不良品ではあるが、外観上は原告の扱う正規バッグと全く同じで区別できないものである。ただ、内張りの仕様が異なっていたり、縫製が雑であるため、使用していればそのうちに欠陥が表面化してくるものである。その意味で、一般消費者に対して、正規バッグと全く同じ物が、一部安売り店舗で著しく安い価額で販売されているとの印象、すなわち、原告及びアルペンがいわゆる二重価格を設定しているかのごとき社会的印象を与え、あるいは、原告及びアルペンが、不良品をそれと知りつつ安売り業者を通じて販売しているかのごとき印象を与え、その業務上の信用を毀損した。

右の信用毀損による損害の賠償及びその回復措置としては、三〇〇万円の支払及び第一の二記載の謝罪広告が相当である。

(3) 弁護士費用

一〇〇万円が相当である。

2  被告ら

(一) 被告らの無過失

(1) 被告会社の従業員鈴木繁は、平成二年一〇月初めころ、韓国の東大門市場の珍島商社へ出向いた際、同社の販売担当者から、本件バッグのブランドの所有者は韓国内のメーカーである旨の説明を受け、同社が韓国製の国内向け商品を扱っていたので何の抵抗もなく右説明を信じ、同社から本件バッグ二〇〇個を輸入した。

(2) ところで、原告は、不良品であるという本件バッグを自ら廃棄することなく、かえって原告グループともいうべきカナーンや成和実業をしてこれを市場に流通せしめたものであり、被告会社は、原告側によって流通に置かれた本件バッグを、前記(1)のような説明を受けて買い付けしたのであるから、本件商標権を侵害する故意がなかったばかりか、過失もなかったというべきである。

(二) 信義則違反等

本件の根本原因は、原告が何の手当もしないまま不良品をカナーンに引き取らせたことにあるところ、原被告の行為を比較すると、本件において原告が被告らの責任を追及することは、信義則ないしクリーンハンドの原則に反して許されないというべきである。

(三) 過失相殺

仮に以上の主張が認められないとしても、原告には右(二)に述べたような重大な過失があるので、大幅な過失相殺がされるべきである。

第三  争点に関する判断

一  被告らの行為及び責任について

1  証拠(甲一、四の一、二、甲五の一ないし三、甲六、乙一、二、一〇、証人鈴木、同畑谷)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告会社は、本件商標(ただし、「studio α」との欧文文字のみで、「スタジオ アルファ」との片仮名の表記を伴わないもの。以下同じ。)を付したスキー用バッグを韓国の製造業者であるカナーン株式会社に製造を依頼してこれを輸入していたところ、カナーンは、成和実業株式会社から納入された本件バッグを製造する生地に不良品があったため、同社に対し、それを使用して製造した完成品、半製品及び原反を全部廃棄するように指示して引き取らせた。

(二) 被告会社において韓国からの輸入業務を担当していた鈴木繁は、本件バッグに商標登録済みの記号が表示されていたことから、本件バッグに付されている本件商標が登録済みであることを認識したが、ソウル市の東大門市場に店舗を構えている珍島商社の販売員から、右商標の所有者は韓国内のメーカーであるとの説明を受けてこれを信用し、輸入しようとしている本件バッグの数量も少なかったので、商標についてそれ以上の調査をしないで、平成二年一〇月初めころ、輸入代行業者である有限会社興豊物産を経由して珍島商社から、本件バッグ二〇〇個を輸入した。

(三) 被告会社は、本件バッグにつき、卸売業者である有限会社京愛バッグに対し、同年一〇月二二日に四〇個、同年一一月二二日四〇個を、同じく株式会社ミドリに対し、同年一一月五日に五〇個、同月一五日に五〇個をそれぞれ卸販売し、残り二〇個を同年一二月一〇日から同月二二日までの間に店頭販売したが、ミドリから、同月一八日ころに三〇個、同月二六日ころに一個、同月二九日ころに四個、合計三五個が不良品として返品された。

(四) 原告会社は、平成二年一二月初めころ、偽物のバッグが出回っているとの情報を得て調査したところ、被告会社が本件バッグを販売していることが判明したため、同月二〇日代理人を介して電話で、被告会社に対し、同社が本件バッグを販売していることは原告会社の商標権を侵害するので善処してほしい旨及び後日書面を送る旨を連絡し、同月二七日ころ到達の書面で、被告会社に対し、同社が本件バッグの販売により原告会社の本件商標権を侵害しているので、販売を中止し、市場にある商品を回収すべき旨を通告した。

(五) 被告会社は、返品された本件バッグについては、不良箇所を修理した上で在庫品とともに店頭販売をしており、右の電話連絡がされた当時、いまだ相当数の手持品があったが、販売中止の措置を執らずに販売を継続し、結局、翌年一月七日までの間に、輸入した本件バッグのうち三個を残しただけで合計一九七個を販売した。

(六) 被告鈴木は、被告会社の業務全般を統轄していた代表取締役として、本件商標について特段の調査もしないで本件バッグを販売させた。

(七) 本件バッグは、京愛バッグ及びミドリを通じて、日本国内の広範囲の需要者に販売された。

2  商標法三九条、特許法一〇三条によれば、他人の商標権を侵害した者は、その侵害行為について過失があったものと推定されるところ、被告らは、被告らには過失がなかった旨主張する。しかし、前認定の事実によれば、被告会社の担当者鈴木繁は、本件バッグの表示により本件商標が登録済みのものであることを知りながら、珍島商社の販売員の説明を無批判に信じ、商標についてそれ以上の調査をしないで本件バッグを輸入し、被告鈴木は、右のようにして輸入された本件バッグにつき、その商標について特段の調査もしないでこれを販売させたのであるから、被告会社の代表取締役である被告鈴木が侵害行為につき無過失であったということはできず、他に被告鈴木が無過失であったことを窺わせる事情を認めるべき証拠はない。かえって、前認定の事実によれば、被告鈴木には過失があったというべきである。

3  また、被告らは、原告が不良品について何らの手当もしなかったとして、信義則違反等及び過失相殺を主張するが、前認定の事実によれば、本件バッグを流通に置いたのは原告ではなく、原告の製造委託先であるカナーンから製造を委託された成和実業であると推認されるのであり、カナーンは成和実業に対して前認定のような指示をしていたのであるから、本件バッグが流通に置かれたことについて原告に過失があったということはできないし、まして、原告が被告らの責任を追及することが、信義則ないしクリーンハンドの原則に反するということはできない。

4  以上のとおりであるから、本件商標権を侵害したことにつき、被告らは、原告に対し、いずれも不法行為責任を負うというべきである。

二  原告の損害等について

1  逸失利益 四万六四九二円

(一) 証拠(甲七、証人畑谷)によれば、原告は、小売業者であるアルペンに対し、事実上独占的に本件商標の使用権を与え、正規バッグ(製造単価三九二七円)を単価四一六三円で全部売り渡し、一個につき二三六円の利益を得ていたことが認められるので、被告らの侵害行為がなければ、正規バッグを一九七個販売して、一個当たり右と同額の利益を得ることができたのに、被告らの侵害行為によってこれを得られなかったと認めるのが相当である。

そうすると、原告の受けた損害額は、一九七個分で四万六四九二円となる。

(二) 原告は、アルペンとの間で、本件商標について第三者が侵害行為をしてアルペンが損害を被った場合には、原告がその損害を填補する旨約した旨主張するが、右の事実に沿う証拠(甲七、証人畑谷)は、これに関する契約書が提出されていないことに照して、たやすく信用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(三) 前認定の事実によれば、被告らに故意又は重大な過失はなかったものと認められるが、逸失利益についての損害賠償額の算定に当たっては、前記の金額に照し、これを考慮しないのが相当である。

2  無形損害及び信用回復措置 一〇〇万円及び謝罪広告

証拠(甲二、三、検甲一、二、証人畑谷)及び弁論の全趣旨によれば、本件バッグは、不良品であるが、外観上は正規バッグと同じで区別ができず、ただ、内張りの仕様が異なっていたり、縫製が雑であるため、使用していればそのうちに欠陥が表面化してくるにすぎないので、一般消費者に対しては、正規バッグと全く同じものが安売店舗で著しく安い価額で販売されているとの印象、すなわち、原告及びアルペンがいわゆる二重価格を設定しているかのごとき印象を与え、あるいは、原告及びアルペンが、不良品をそれと知りつつ安売り業者を通じて販売しているかのごとき印象を与えたことが認められる。

右の事実によれば、被告会社の行為により、原告の信用は著しく毀損されたものと認められ、本件バッグの販売数量等前認定の事実に照すと、被告らは、これによって原告が被った無形損害を賠償すべきであり、その額は前認定の諸般の事情に鑑み一〇〇万円が相当であると認める。また、前認定の諸般の事情に照すと、損害賠償とともに、原告の営業上の信用を回復するため、被告らに対し、主文掲記の限度で謝罪広告を命ずるのが相当である。なお、原告は、被告らに対し、謝罪広告の内容において、被告会社がアルペンに対しても謝罪の意思を表明することを求めているが、原告が右のような請求をすることのできる根拠については、これを認めるに足りる証拠はない。

3  弁護士費用 二〇万円

本件事案の内容、訴訟経過及び認容額等に鑑み、被告会社の行為と相当因果関係にあるものとして被告らに請求し得べき分としては、二〇万円が相当であると認める。

三  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、右の限度で理由があり、その余は理由がない。

(裁判長裁判官 瀬戸正義 裁判官 後藤博 裁判官 入江猛)

謝罪広告目録(一)

弊社は、名古屋市中区名駅五丁目二五番一号愛三ビル内、株式会社ジャパーナの有する商標権「スタジオアルファ」を侵害し、同社が製造するスキー用バッグと類似する当社の製品に対し、無断で右「スタジオアルファ」の標章を付して販売し、株式会社ジャパーナの信用を毀損いたしました。右事実についてここに掲載いたしますとともに、同社に対し謝罪の意思を表します。

平成 年 月 日

東京都江戸川区南小岩二丁目七番一四号

有限会社 ベル・バックス

右代表取締役 鈴木和己

謝罪広告目録(二)

弊社は、名古屋市中区名駅五丁目二五番一号愛三ビル内、株式会社ジャパーナの有する商標権「スタジオアルファ」を侵害し、右株式会社ジャパーナが製造し株式会社アルペンが販売するスキー用バッグと類似する当社の製品に対し、無断で右「「スタジオアルファ」の標章を付して販売し、右両社の信用を毀損致しました。右事実についてここに掲載致しますとともに、右両社に対し謝罪の意思を表します。

平成 年 月 日

東京都江戸川区南小岩二丁目七番一四号

有限会社 ベル・バックス

右代表取締役 鈴木和己

商標権目録

一 登録番号 第二一五七二三一号

指定商品 第二一類 装身具 ボタン類 かばん類 袋物 宝石およびその模造品 造花 化粧用具

出願日 昭和六一年一二月一九日(商願昭六一-一三三八四四)

公告日 昭和六三年一一月二八日(商公昭六三-九四六二七)

登録日 平成一年七月三一日

登録商標 別紙商標公報該当欄記載の通り

二 登録番号 第二一〇九七二〇号

指定商品 第二四類 おもちゃ 人形 娯楽用具 運動具 釣り具 楽器演奏補助品 蓄音機(電気蓄音機を除く)レコードこれらの部品および付属品

出願日 昭和六一年一二月一九日(商願昭六一-一三三八五三)

公告日 昭和六三年六月八日(商公昭六三-四二七一九)

登録日 平成一年一月二三日

登録商標 別紙商標公報該当欄記載の通り

日本国特許庁

商標公報 第21類

商標出願公告 昭63-94627

公告 昭63(1988)11月28日

商願 昭61-133844

出願 昭61(1986)12月19日

出願人 株式会社ジヤパーナ

愛知県名古屋市東区泉一丁目15番23号

栄リバーパーク7階

代理人 弁理士 広江武典

審査官 岩浅三彦

指定商品 21 装身具 ボクン類 かばん類 袋物 宝玉およびその模造品 造花 化粧用具

<省略>

日本国特許庁

商標公報 第24類

商標出願公告 昭63-42719

公告 昭63(1988)6月8日

商願 昭61-133853

出願 昭61(1986)12月19日

出願人 ジヤパーナインターナシヨナル株式会社

愛知県名古屋市東区泉一丁目15番23号

栄リバーパーク7階

審査官 能條佑敬

指定商品 24 おもちや 人形 娯楽用具 運動具 釣り具 楽器 演奏補助品 蓄音機(電気蓄音機を除く)レコード これらの部品および付属品

<省略>

物件目録

スキー用バッグで別紙写真の形状のもの

<省略>

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<省略>

<省略>

<省略>

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